孤風院(旧熊本高等工業学校講堂)

【所在地】熊本県阿蘇市永草 【建築年】1908(明治41)年(現在地への移築1976昭和51)年 【設計】講堂の設計者は不詳(移築設計:木島安史) 【施工】講堂の施工者は不詳(移築工事:岩永組) 
■強靭なロマンチシズムが生んだ半過去の建築
1975年に竣工した上無田神社(熊本市)は、世界の建築界にポストモダンという新しいスタイルの建築として紹介された。『孤風院』は、その設計者である木島安史(1937−1992)の思想と生き方をつまびらかに物語る。もともとこの建物は、熊本市にある現熊本大学黒髪キャンパス南地区に明治期に建てられた講堂であり、図書館を兼ねていたので、隣接してあった赤煉瓦の書庫が今も元の位置に残っている。1975年に老朽化のために取り壊されることになったこの建物を木島は個人で引き取り、自費で移築再建し、15年間住宅として一人で住んだ。65坪の壮大な伽藍の再生に嬉々として取り組み、過酷な自然条件の中で軽やかに住みこなした木島の生き方とともに、「歴史は個人の外にあるのではなく、個人と切り離しがたく内にあるのだ」という木島の思いは今も生きている。不完全、未完の状態が建築との対話を生み、至福の時間を作り出す。創造者としての木島の強靭なロマンチシズムが成し遂げた業である。英語で「棺桶」、フランス語で「玉手箱」を意味するcoffin(孤風院)の命名のとおり、死んだはずの建築が生きながらえ、住み手である木島本人や残された私たちの宝物となった。
写真1.弧風院の会『堂夢の時感:木島安史の世界』カバー写真(撮影:小山孝)

写真2.木島安史が残したスケッチをもとに大理石で敷かれた床面(撮影:冨重清治)

写真3.熊本大学キャンパス内にあった講堂(1974年撮影)

【参考文献】
木島安史著『弧風院白書』星雲社 1991年
弧風院の会『堂夢の時感:木島安史の世界』SD9404に加筆
木島安史著『半過去の建築から』鹿島出版会 1982年
熊本県教育委員会熊本県の近代化遺産』1999年
熊本日日新聞連載『家は生きてきた』1974年2月20日黒田正巳氏分担執筆