後藤商店(熊本市景観形成建造物)

【所在地】熊本市中央区辛島町 【建築年】1919(大正8)年 【構造】木造二階 【建築主】後藤儀平 【施工】(棟梁)馬場恒吉 
■大正の大商家
旧城下町に今も残る町屋の多くが間口2間半から3間半であるのに対して、後藤商店は電車通りに面して11間の間口を持つ大商家の構えである。明治末に山崎練兵場の跡に新市街、花畑町、辛島町、練兵町などの街が生まれ、電話交換局や専売局煙草工場等が建設された。後藤商店もそのような新しい街に金物店を開業し、釘、ネジ、ワイヤーをはじめとする和洋金物を取り扱い、一時期は鋼材も販売されていた。昭和22年に創業者の後藤儀平氏が亡くなられた後も後継者によって営業が続けられていたが、平成10年頃には休業状態となり現在は商品も撤去され、1階の一部にはテナントが入居している。
■洋館と和館の共存
市電道路側の外観は、縦長の上げ下げ窓や軒下の蛇腹、寄せ棟の大屋根から前方に両翼を突き出したシンメトリー(左右対称)に近い2階正面などは洋館のモチーフであり、トラス構造の屋根の架構は伝統的な和風小屋組みではないのだが、大きな鬼瓦や幾重にも重なる棟瓦が乗る重厚な屋根と黒漆喰の大壁とが織りなす様は、日本の伝統的な土蔵造りの佇まいである。
■暮らしと商いの共存
一方、裏手の南側は、一階座敷回りの廊下や7間半の縁桁の通る2階の縁側が庭に向かって南に開いており、純然たる和風の造りである。大工はもとより瓦職人、左官表具師、建具師が総がかりで家づくりに取り組んだ。後藤家に伝わる「家事総禄」によると大正9年4月に井戸掘りが終わってやっと家が完成している。延べ面積約200坪の大商家は、事務室や店舗、応接間などの洋式の部屋と純粋和式の居住空間とが共存し、全体として大商家の生活空間を成している。
■平成の改修
 後藤商店については参考文献に詳しいが、それらの調査時点以降、2005(平成17)年に屋根の葺き替えと外壁の補修、塗り替えが行われている。必ずしも原状に忠実な修復とはなっていないが、建物を取り壊すことなく歴史的環境を現代の生活空間として活かしていく営みの一環ととらえたい。
 近年年末にはライトアップしてます。
 北側電車通りからの外観
 南側庭に面した外観
 2階応接室の鉄製天井板